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水の変容 Ⅱ




水の三態


この項では,水を構成するH2O 分子が華麗に踊る様を,分子動力学計算によってシミュレーションした結果をお見せする。


化学的にも,物理的にも,純粋な水はこの世に存在しない。気相,固相,液相のいかなる状態であっても,構造には時間的,空間的な乱れが存在する。この乱れは,それぞれの場における現象に深く関わっている。すなわち,気相の水も,液相の水も,固相の水も,何らかの意味でつねに不完全さをもつ。

水は,地球の歴史を背負っている。われわれが口にする機会が増えた湧水は,地殻の化学を反映している。水素と酸素から純粋な水を合成しようとしても,原料の水素も酸素も決して純粋ではありえない。合成に用いる容器からも,不特定多数の物質の混入が避けられない。たとえどのように慎重に精製したとしても,水にはつねに何かが混在する。すなわち,水は,つねに水溶液である。

温度が上昇すると,固体の氷は融けて液体の水となり,さらに温度が上昇すると気体の水蒸気になる。固体の氷,液体の水,気体の水蒸気を水の三態とよぶ。

地球上に存在するすべての物質のなかで,自然の状態で,三態がすべて存在するのは水だけである。地球における人類をはじめとするすべての生物の営みは,この事実と密接に関係している。

水は,固相,液相,気相の3態において,さまざまな構造をもつ。このこと自体,すべての物質と変わるところはないが,水の構造は,その多様さにおいて群を抜いている。

次の図は,筆者が平成10(1998)年に出版した『水の書』(⇒ ライフログ)の表紙の一部である。
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気相の水


気相の場合には,圧力を充分に低く設定すれば,1個のHO分子,
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あるいは少数のHO分子によって形成されるオリゴマー[(A)2量体,(B)3量体,(C)4量体,(D)5量体)]の構造
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を決定することが,原理的には可能である。オリゴマーの形成に当たっては,個々のHO分子の間に,水素原子を介する水素結合が存在する。

気相の場合であっても,圧力が上昇して分子同士の衝突が甚だしくなると,系内に存在する分子種の大きさやかたちが短い時間の間に変化してしまう。このような場合には,構造を実際に絵に描いて理解することが困難となる。その極限が液相の水である。

液相の水

(動画付き,(二つ目のパラグラフの中)をクリックして下さい)


液相の水(以下,単に水とよぶ)を構成する個々のHO分子の集まりは,一体どのような姿をしているのだろうか。1リットルの水の中では,1023個程度の数のHO分子がひしめき合い,猛烈な速さで離合集散を繰り返している。コンピュータグラフィックスによって再現したその姿は,つぎの[水]をクリックしていただければみることができる。
(機能水研究所,藤井和久氏動画製作;音楽はソニー音声研究所の協力による)

時間軸を1013倍に引き伸はしたスローモーション。個々のHO分子は,気相の水でみたオリゴマーそのものである。ただそれが,猛烈は速さで離合集散を繰り返しているのである。[⇒] この図では,酸素原子を白の大きな玉,水素原子を赤い小さな玉で表示している。

この結果は,あくまで,酸素原子と水素原子の間の水素結合,それに加えて,普通の分子間ポテンシャルを加えて,分子動力学計算したものであるとことをお断りしておきたい。しかし,現実の水の姿と大きく異なってはいないと考えているいる。なお,歌われている曲は『シューベルト:水の上にて歌える』(ソプラノ,エリザベート・シュワツコップ;ピアノ,エドウィン・フィッシャー,EMI)。

O分子の間に存在する水素結合が,氷の特徴的な性格を反映し,氷が水に浮ぶ原因ともなる。

固相の水


水の温度が下がってくると,HO分子同士が互いに接近し,その結果,水の密度が低下する。しかし,4℃になると密度の下降は止まり,個々のHO分子がギュウギュウに詰め込まれ始める田も,再び密度が上昇する。これは,HO分子の間に「突っ支い棒」の役をする水素結合が形成されるからである。蛇足ながら,「突っ支い棒」に馴染みのない若い読者は,チャンバラ映画(テレビ)を見てください。入り口の戸を閉めるのに「突っ支い棒」は欠かせないのです。

以上の点は,酸素と同じ16属の元素で,周期表のすぐ下にある硫黄に水素が結合したHS分子の結晶と比較するとよくわかる。HO分子の結晶には大きな隙間があるのに反して,個々のHS分子は,隙間無くびっしりと詰め込まれている。この点は,図を見れば一目瞭然である。左がHO,右がHSである。
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隙間の多い氷は,水に浮ぶ。しかし,密度が最低になるのが何故,4℃であるかはわからない。水素結合を含めての分子間力,熱エネルギーの兼ね合いになるからである。

つづく

by yojiarata | 2011-05-18 18:36
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