創薬・新版(2016) 日本の現状と将来 巻の1




ご隠居さん 今日のプログのタイトルは,どこかで見たような気がしますけど。

覚えていてくれましたか!

2011年時点での状況を,日本トップの製薬メーカーの一つ,現在の第一三共の前身である三共で創薬部門の総責任者であった平岡哲夫博士にお話をうかがい,2011年6月30日に, 【 創薬 日本の現状と将来 Ⅰ ー VI をこのブログに掲載しました。

この記事は,小生のブログの中で,最もアクセスが多いものの一つで,大変好評でした。



***




● あれから5年以上が経過したいま,事態は大きく変わりました。創薬は,世の中の人々が,その進歩を最も強く待ち望んでいる分野ですからね。進歩も,従って競争も熾烈ですよ。

そのため,現在の日本,そして世界の動向を急いでまとめる必要を大いに感じているわけです。


● 今回も,平岡博士にこの世界の動きをうかがうことにしました。

前回のブログと同様,私が質問し,それに平岡博士に答えていただくという形式をとります。



***




新薬の開発と薬価




荒田

今回もよろしくお願いします。


平岡

アスピリンに始まる近代医薬品は合成低分子医薬,植物由来の天然物医薬,抗生物質を中心とする微生物由来医薬品,現在隆盛をきわめる「抗体医薬」(すぐ後で説明します)などとして発展してきました。その歴史は輝かしく,人類の発展に華々しく貢献すると同時に科学の進歩にも多大の貢献をしています。


荒田

年々,よい薬が開発され,患者にとっては朗報です。それと同時に,物凄く高価になって大変ですね。


11月17日の朝日新聞(朝刊,3面)に,詳しい記事が掲載されているのを読みました。


オプジーボ 来年2月に半額

薬価制度 抜本見直しへ



薬価といっても,1年に5万,10万などとは桁違いです。この薬の場合は,患者1人で年間約3500万円(!!!)というではありませんか。

追々説明いただくとして,そのオプジーボというのは,一体何者ですか。

どのような経過で見つけられ,どのような病気に効くのでしょうか?


平岡

オプジーボは,化学的にはモノクローナル抗体です。作用メカニズムは免疫調節作用で,がん治療薬です。以後,「抗体医薬」とよぶことにします。

この薬の詳しい開発経緯は朝日新聞・平成28年9月25日の31面に図入りで,大きな長い記事で紹介されています。以下,要点を書きます。

治験は米国で2006年,日本で2008年に始まりました。2012年に米国での結果に世界中が驚きました。末期がん患者296人に約半年間投与すると,肺がんや皮膚がんの一種メラノーマ,肝臓がんの患者の各2-3割でがんが小さくなったのです。

抗体医薬「オプジーボ」は,2014年に日本で世界最初にメラノーマの治療薬として承認され,米国や欧州でも承認された。国内では2015年に肺がんの一部,今年に腎臓がんの一部も加わり,先月現在,54ヵ国で承認されています。

もう少し詳しいことは,この後で,追々述べていきます。

また,発見・開発の過程はすぐ後の「研究開発者は複雑です。・・・」の項目に記載します。


荒田

また後で追加の質問を致したく思います。価格の議論に戻ります。

世界的には,どのような状況でしょうか。


平岡

アメリカでも Skyrocketing Drug Prices とよばれて,問題になっています。


荒田

文字通り,「生きる」か,「お金が払えないで,生きるのを諦める」かの問題ですね。

どうしてこんなに高価なのかは,あとでうかがうとして,朝日新聞によれば,緊急的に50%引き下げられることが決まったとありますが,差額分はどこから持ってくるのでしょうか。


平岡

50%引き下げられた部分は売上高がその額だけ減少し,対応する経常利益がその分だけ減少します。


荒田

新しい薬を創るのに,巨費がかかると聞きましたが,例えば,オプジーボの場合,どうですか。


平岡

個々の薬の開発経費は各社秘密となっていますので不明です。

さらに抗体医薬一つの平均開発費も公表されていませんので,スパイ活動でもする以外に知る方法はありません。開発に関与した研究者でも知らないと思います。

厚労省に希望薬価の申請する時に研究費用,製造原価などを記載しなければなりませんので本社の限られた数の関係者は当然知っているはずです。


荒田

この薬は,日本の小野薬品で作られたと書いてあります。一方で,ブリストル・マイヤーズもかかわったと聞きましたが,両者の関係はどうなっているのでしょうか。


平岡

開発関係者は複雑です。

開発研究のおおもとは大学の基礎研究に発しています。1991年京都大学の本庶佑 (ほんじょ・たすく )教授の研究室で細胞が自ら死を選ぶ 「アポトーシス」 という現象に関わる遺伝子を探している過程で一つの遺伝子が発見されました。この遺伝子は予定 (プログラム)された 細胞死(デス)の頭文字から「PD-1」と命名されました。

本庶教授は先代の教授が係わりを持っていた小野薬品工業と共同でこれに関する特許出願をしました。その後,種々の研究を経て免疫細胞である T 細胞上の PD-1 部分を抗体でブロックすると免疫細胞ががん細胞を攻撃し続けることが判明し,薬としての価値が認識されたのです(2002年)。

この当時,小野薬品は抗体開発の経験がなく自社単独での開発は無理と判断し,他の製薬会社十数社に共同開発を呼びかけたのですがすべて断られたと聞きました。

そこで抗体に強い米国のベンチャー企業「メダレックス社」と共同研究開発契約を締結し(2005年),開発が開始されました。2006年アメリカで臨床試験が開始され,2008年には日本でも臨床試験が始まりました。しかし「生き馬の目を抜く」ということわざがぴったりの出来事が起こりました。2009年,アメリカのブリストル・マイヤーズスクイブ が メダレックス社 を買収したのです。

従って オプジーボの開発は小野薬品工業-ブリストル・マイヤーズスクイブで進められ,現在も進行中です。



以上要するに,オプジーボは,PD-1 に対するモノクローナル抗体です。


荒田

オプジーボは,末期がん患者296人に約半年間投与すると,肺がんや皮膚がんの一種メラノーマ,肝臓がんの患者の各2-3割でがんが小さくななったという結果について話されました。

私は,大学にいた頃,モノクローナル抗体と長年にわたって関わりました。一言で言えば,一種類のモノクローナル抗体は,複数の相手に結合するのです。その一方,ワクチンなどの抗体は,いずれも,ポリクローナル抗体です。つまり,多数のモノクローナル抗体が混じったものです。

私個人にとっては,重要なことですが,これ以上議論を始めると,一般の読者をいたずらに混乱させますので,話をここで止めておきます。


平岡

ここで,いくつか重要な点を述べておきたいと思います。

雑誌(月刊誌)の「選択」11月号の連載記事「企業研究」に小野薬品工業が取り上げられています (4ページの記事)。

小見出しは以下のとおりです。

・新薬バブル「暗転」で社業傾く三重苦

・致命的な副作用を見逃す形に

・競合薬の優位性を示す報告

・超高額薬剤費批判で「火だるま」に

・会社の浮沈はオプジーボしだい


オプジーボの薬価がスカイロケットとアメリカで言われていますが,日本では来年2月に半額に値下げすることが決定されています。この決定は政治的判断によるものです。


荒田

政治的判断というと,具体的には,どうゆうことでしょうか。何が実際に起きているのでしょうか。


平岡

薬価は2年ごとに見直し改定が行われますが,オプジーボは高すぎるとの批判があまりにも大きいのでこれには従わずに,早めにさげることと下げ幅などに政治的判断がくだされたのです。

私に言わせれば日本でも超高価と言われていますが,日本の薬価決定制度は現在透明性があります。厚生労働省が決定している訳ですが,薬価の決定方式が公表されています。パソコン検索で「新医薬品の薬価算定方式」と打ち込むと対応する方式を見ることが可能です。12ページにわたる PDF での説明にぜひ目をとおしていただきたいと思います。

いずれにしてもオプジーボのような高価薬は本人負担も大きいのですが,7割を負担する健康保険組合も破綻する可能性があります。

これまで,「抗体医薬」の原価につき「不明,スパイ活動でもしない限り,知るのは困難」と私は表現してきましたが,やっとオプジーボにつき知ることができました。すぐ後に書きますが,スパイ活動をしたわけではありません。

結論を申しますと,オプジーボの製造原価は1グラム180万円,1キログラム18億円です。製造総原価の 40% が製造原価です。

詳細を知るためには,次のウェブページをご覧ください。


高額医薬品 ニボルマブ(オプジーボ)の価格はどう決められたのか




荒田

小生,大学にいた頃,実験室レベルで抗体を作っていましたが,1回の実験に必要な10 ミリグラム を作るのに,研究室の家計簿と相談しながらでしたから。


平岡

平成26年9月の新医薬品一覧表によりますと,点滴用の薬剤が,20mgで150,200円,100mgで729,849円です。「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対して 3 mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴」とあります。


荒田

それは,経済的には恐ろしいことですね。

ところで,使用する薬剤の溶液の量は mg 単位で表現するのですか?


平岡

オプジーボ 3 mg/kg (体重) の意味は「体重50kg の患者には 3 mg × 50 = 150mg」 を点滴用の等張液に溶かして使用するという意味です。

点滴を行う約3-5リットルの瓶の底にオプジーボの粉末(20 mg または 100 mg)が入ったもの
を販売されています。そこに,注射用蒸留水(または等張液)を加えて溶かして点滴を行います。

または、小瓶にオプジーボが入っていてそれを少量の注射用蒸留水にとかし,これを注射器で吸い取り,点滴用大瓶に移します。


荒田

これまで,「抗体医薬」として,オプジーボの名前が挙がってきたのですが,現時点では,「抗体医薬」としては,オプジーボ だけが存在するのでしょうか?


平岡

オプジーボの他にも,抗体医薬は多数(数十種)世の中にでています。昨年12月の米国化学会発行の週刊誌(Chemical & Engineering News)の記事では世界の薬の売上高のトップテンの半分は抗体医薬です(抗体医薬の価格が高いことも要因の一つです)。


荒田

最近の新聞記事から。


11月25日
販売急増した高価薬の価格
最大年4回改訂
厚労省方針


塩崎恭久厚生労働相は25日,販売額が急増した高額薬の値下げを最大で年4回実施する方針を明らかにした。薬価改定は現在,2年に1度行っているが,値下げする機会を増やす。高額ながん治療薬「オプジーボ」の緊急的な値下げを決めたことに伴う対応策とする。

塩崎氏がこの日の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で表明した。

値下げは,新薬を医療保険で使えるようにする機会ごとに検討する。もともとの薬価の決め方についても透明性を向上させるほか,薬の「費用対効果」を価格に反映させる仕組みの導入も加速させる。

安倍首相は「薬価制度の抜本改革に向けて,年内に基本方針をとりまとめるように」と関係閣僚に指示した。
 
患者1人で年間約3500万円かかるオプジーボは米国や英国の2~5倍高いことが問題視され,来年2月に緊急的に半額に値下げされる。



別の記事です。

急性リンパ性白血病の小児患者の染色体異常を調べてタイプを見分けることで治療期間を短くできる可能性があると,国立成育医療研究センターなどの研究チームが28日,発表した。患者によっては,従来は2年ほどかかる治療が1年余りとなり,負担を少なくできるという。

急性リンパ性白血病は小児がんの3割近くを占める。この病気の治療では,注射薬の抗がん剤を半年程度使用後に,飲み薬の抗がん剤を1年以上服用するのが一般的で,5年生存率は7~8割。飲み薬の期間が短いと再発リスクが高まり,長いと成長してから心機能などの障害リスクが高まるが,最適な服用期間がはっきりしない。

全国約60施設が参加する研究チームは,1992年~95年に治療を受け,飲み薬の期間が4~6カ月の151人について,がん細胞の全遺伝情報(ゲノム)を解析。その結果,特定の染色体異常(2種類)があった患者は再発なしの生存率が9割を超え,飲み薬の期間を短くできる可能性が浮かんだ。ほかの患者では5割程度だった。また,女性の方が男性より再発率が低かった。

国立成育医療研究センターの加藤元博医長は「性別や染色体異常の有無で,飲み薬の服用期間の判断材料が得られ,患者の負担を最小限にできる可能性がある」と話す。



***




荒田

私は,1971年から2年間,スタンフォード大学のメディカルセンターの薬理学教室(オレッグ・ジャーデツキー教授の研究室)に客員助教授として滞在していました。その間,実に多くのことを学びました。中でも,ポール・バーク教授の講義にはショックを受けました。

「がん」というのは,もともと情報が「遺伝子」に組み込まれていて,何かのきっかけで発症するんだと仰いました。1972年ごろの講義だったと記憶しています。ポール・バークの陣頭指揮によって,遺伝子組み換え技術がアッという間に広まりました。その後のことは,皆さんがご存じの通りです。

「遺伝子とがん」は今や,世界のがん研究者が研究の芯に置いている事柄です。この点を念頭に置いて,アメリカではオバマ大統領が,Precision medicine こそが,我々が今後とるべき「がん対策」の主流になるべき戦略であると演説しました。


平岡

Precision medicineという言葉は2010年頃から目につくようになった言葉です。精密(正確) な医薬ということですが,主としてがん領域で使用されています。

多くの制がん剤が開発されながらも薬では患者の完全治癒には残念ながら遠い状況は広く認識されています。しかし遺伝子解析方法が進展し,将来,がんは肺がん,乳がんなどの部位別の呼び名ではなく異常遺伝子,例えば,myc とか ras 遺伝子異常病などで分類される可能性があります。そうなれば,制がん剤も precision medicine に近づくことになります。


荒田

以上の現状に鑑み,今後,創薬において,日本が採るべき方針について,コメントをお願いいたします。



今後,創薬において,日本が採るべき方針



平岡

抗体医薬では,日本は将来予測の間違いから世界的に遅れをとり,それの回復に努力中と言えます。

現実問題としては,約10年前までは日本で抗体医薬を自社開発できるのは中外製薬と協和発酵キリンの2社しかなかったのです。そのため,オプジーボも残念ながらメダレックスとブリストルマイヤー・スクイブの関与がなければ小野薬品1社では開発できなかったのです。

現在は日本の大手製薬会社はベンチャー企業と組んで抗体医薬の自社開発も活発に進めています。そこで今後重要になるのは ADC 薬(Antibody Drug Conjugate)という抗体に目的作用を有する低分子薬を結合させた(背負わせた)薬です。

抗体が分子標的薬として細胞表面に取り付き,そこで低分子薬が放出され細胞内に入り効力を発揮します。しかし,この低分子を乗せる部分の化学構造式にすぐれたアイディアと技術を必要としています。即ち,高度な目的を持った DDS(Drug Delivery System)の開発が必要となります。


次いで重要と考えられるのはやはり優れた「制がん剤」の開発です。

がんは遺伝子の異常により発生することを考えるといわゆる特効薬の開発はそうやさしくはありませんがその努力は続けるべきです。しかし,がんは遺伝子の異常により発生することを考えるとこのブログの最後の方で述べる CRISPR/Cas9 などによる薬ではない遺伝子治療が主流になる可能性が高いかもしれません。

いわゆる難病に対する薬の開発も重要とみなされますが,これも全部ではないにしても遺伝子治療が重要になってくると予想されます。

抗生物質は耐性菌感染以外は現在あまり話題となりません。しかし,常に耐性菌の出現の問題があるのでそれへの対応は考えておかなければなりません。

抗ウィルス薬研究は将来も重要であることには変わりはありませんが,最近の米国ギリアード社のC型肝炎治療薬成功例をみるとその方向性はみえてきていると思われます。

この項目最後に,薬本体ではありませんが,ADC 薬のところでふれた DDS(Drug Delivery System)の更なる発展が望まれます。とくに,血液脳関門を突破して脳内に薬を運搬する方法の研究の進展が重要です。



***




ここで,低分子,中分子,高分子の3領域に広くかかわるタンパク質ータンパク質相互作用阻害剤についてふれておきたいと思います。
  
現在,薬として最も注目され,汎用されている「抗体医薬」の中にはタンパク質ータンパク質相互作用阻害薬( PPI:Protein-Protein Inhibitor )が存在します。しかしながら,この薬は生体内の細胞膜表面のタンパク質に作用する化合物群です。

細胞内では多くの数のタンパク質が種々の相互作用をして生体の恒常性を維持しています。病気の一部の治療ではどうしても細胞内のタンパク質-タンパク質相互作用阻害剤が必要となります。そのため,一義的には細胞膜を通過する能力を持つ低分子薬が候補化合物となります。

中分子,高分子でも細胞膜を通過する何らかの工夫が施されていればかまいませんが,現在その技術が一般的には開発されていません。ですから,英語でdruggable PPIという言葉が使用され,それに対応する候補化合物は当然,低分子化合物ということになります。

しかし薬としての能力を持った(druggable)PPIを作るには幾多のハードルがあります。まず最初に考えられる難問は高分子であるタンバク質同士の接触面が大きければ低分子化合物でそれを阻止はすることは困難です。タンパク質間の接触面として実際には次の3種類が想定されています。

すなわち,

(i) 接触界面の広いタイプ

(ii) 界面は狭いが明確な二次構造が無いタイプ

(iii) 接触面が比較的小さく,かつ明瞭な二次構造を有するタイプ(例えば,片方のタンパク質がα-helix 構造)などです。

これらの点を考慮すると,低分子薬で PPI を作る困難さが理解されると思います。したがって,「一般化できない点が PPI 阻害薬設計の難しさ」などと言われています。勿論,大手の製薬会社,ベンチャー企業,大学でも活発に研究が行われており細胞膜を通過する低分子 PPI が世に現れる時代がいずれはくると考えられます。



ノーベル賞と創薬



荒田

ノーベル賞の関連で,議論すると,今まで見えてこなかった創薬の新しい一面が見えてくるような気がします。


平岡

新しい画期的新薬を発見・開発した人にノーベル賞がでた事例はペニシリンの発見,結核の特効薬ストレプトマイシンの発見など,過去には多くの事例があります。

しかし,1960年代以降は新薬の開発に対してのノーベル賞は出なくなりました。これには医薬以外での治療法の進歩などがあることなど種々の要因が考えられます。しかし,2015年のノーベル生理学・医学賞は熱帯地方の感染症の特効薬の開発で大村智・北里大学特別栄誉教授が受賞されました。それ故,新薬開発でも以前と同じく本当に画期的新薬であればノーベル賞がでることが改めて確認されました。

ここからは新薬ではありませんが創薬にも大きく寄与するであろうと考えられ,ノーベル賞受賞が確実といわれている新しい遺伝子編集技術の最近の事例を紹介しましょう。

明治時代の初頭に「ざんぎり頭を叩いてみれば文明開化の音がする」という言葉が流行したそうですが,現在は「生物関係学者の頭を叩いてみれば CRISPR / Cas9(クリスパー・キャスナイン)の音がする」というのが現状です。

この「ゲノム編集」方法の有用性(迅速,簡便,画期的)が認識・普及し,大学とか企業の研究室でも汎用されるようになり,毎週発行の有名学術誌にもこの方法を利用した研究がかなり掲載されています。俗な言い方をすれば「遺伝子の切った貼った」の非常に有用な方法です。

創薬研究にも勿論貢献し始めています。それ故,昨年くらいから発明者へのノーベル賞受賞が話題となり始めました。結論はいずれにしても将来100%受賞確実というものです。ところが「好事魔多し」という諺の如く実はこの発明者をめぐり現在特許紛争が起きているのです。

この CRISPR / Cas9 というゲノム編集技術は2012年6月,米国 California 大学 Berkeley 校の Jenifer A.Doudna (女性)とスウェーデン Umea University の Emmanuelle Charpentier (女性)らが Science誌 のオンライン版で論文を発表したものです。その後,約半年遅れて2013年1月米国 Massachusetts Institute of Technology (MIT) Broad 研究所 の Feng Zhang らが ヒトやマウスの細胞において CRISPR / Cas9 の有用性を示す論文を発表したのです。

しかし特許については,MIT の Zhang が有利ともいわれており,複雑な事態が進行しています。特許においては 先願主義(先に出願した方が勝ち)と先発明主義(実験ノートを調べて実験がなされた日付が早い方が勝ち)の両方が存在し,米国は先発明主義をとる国ですので,MIT の Zhang が有利ともみなされます。いずれにしても,毎週,毎月発行される学術雑誌での論文では Zhangではなく Daudna の Science誌 の論文が引用文献として記載されており,将来,ノーベル賞受賞者がどうなるかは不明です。




つづく

# by yojiarata | 2016-12-08 22:37 | Trackback | Comments(0)

創薬・新版(2016) 日本の現状と将来 巻の2




がんの超早期診断法




平岡

近年のがんによる死亡率の上昇に伴い中年層にも広がりつつあるがん死を,国家問題として取り組んでゆかなければなりません。がんの治療法の進歩はそれなりに評価されてはいるのですが,幼い子供を残しての親のがんによる死亡などは限りなくゼロに近づけるべく最大限の努力を続けるべきです。

そこで,がんの早期診断法の頭に「超」がついた超早期診断法について考察しててみたいと思います。

当然ながら「超早期」という接頭語がついたとしても条件として,簡便,安価,迅速,正確,安全などの諸条件を満たさなければなりません。最近一番話題となったのは,新聞(平成27年4月)にも大きく掲載された「早期がん,線虫が尿使いかぎ分け」の記事です。

週刊誌も追随してより詳しく報道しているようですが「腫瘍マーカーより高精度で費用も数百円の見通し」「大学と企業が組み実用化研究が進行中」と公表されています。現在,実用化のためのベンチャー企業がすでに設立され,平成28年3月から活動を開始しており,3年後の実用化をめざすとのことです。

私見としては目的のがん患者の尿の匂い物質を同定し(1種類でない可能性もある),線虫などは使用せずに近代的分析機器で高速,確実性のある診断方法をとる方がベターではないかと考えています。

やはりがん早期診断のサンプルとしては全種類のがんを予測するのであれば,血液,尿,唾液,呼気等の利用などに限られると思います。

1回の採血でがん13種類を見つける検査技術の開発に着手すると新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と国立がん研究センターが発表(2014年8月)して約 2年 強が経過しました。

2018年度を目指して研究が進行中であるとのことですが調べるのは血液に含まれる細胞が出すマイクロカプセル「エクソソーム」中の「マイクロ RNA」でヒトには2500種類以上あることが知られているとのことです。


荒田

上で述べられた点を少し詳しく説明いただけないでしょうか。


平岡

エキソソームは生体内の細胞から分泌される30-200nm の膜小胞で,血液,尿,羊水,腹水中に存在します。エキソソームは DNA,RNA,脂質,タンパク質を含み,細胞から分泌されて目的の細胞へ運ばれ,細胞間や組織へのシグナル伝達の役割を担っていると考えられています。

このマイクロRNAの配列解析でがんの早期診断をしようと,NEDOと国立ガン研究センターが研究をしているのです。




***





これまでの腫瘍マーカーはがんがある程度進行しないと検出できなかったのですが,マイクロ RNAはがん細胞が初期で小さい状態でも分泌されるため早い段階でみつけられる可能性があるとされているのです。さらに乳がん,すい臓がん,大腸がんなどでは特有のマイクロ RNA の候補がわかりつつあるようです。

さらに血液中のごく微量の circulating tumor DNA(ct DNA)分析を行えば,初期のがん治療方針の手引きになる可能性があるとの論文 Nature, Vol.511, p 524 (31,July 2014) もあり,今後の進展が期待されています。

異なった立場でのがんの超早期発見法としては,「がん関連物質のヌクレオソーム解析技術」があります。実用化に向けて動きはじめている方法である。「血液1滴3分で超早期発見」,また良性では反応せずに悪性の腫瘍だけを識別できると言われているのも大きな特徴です。

さらに,2011年から展開されている味の素が開発した「アミノインデックス・がんリスクスクリーニング」は,血液中のアミノ酸濃度の変化をマーカーとした新しい方法でリスクを評価する新しい方法です。

以上,最近のがん「超早期発見方法」についてその概略をまとめましたが,これからの進歩に大いに期待したいと思います。



日本の科学行政と創薬



平岡

表題は簡単ですが,この点を論ずるには,知識,知恵,教養,洞察力,蛮勇などが必要です。筆者がこの能力を有しているかには大きな疑問があるのですが,チャレンジしてみたいと思います。


あとで,荒田さんのお考えも伺いたいと思います。


少し古くなって恐縮ですが,私のいずれ読むべき(買うべき)本のメモの中に「榎木英介著: 嘘と絶望の生命科学」と「五島綾子著:<科学ブーム>の構造」が存在しています。この2冊の本を紹介している平成26年9月14日の朝日新聞の記事の切り抜きも残っています。実際,私はメモのことを失念し,この2冊を購入しないで終わっているのですが朝日新聞の紹介記事の見出しは「今や日本の科学は金もうけに堕した」となっていた記憶があります。

日本の「科学行政」といっても文科省の政策,考え方が国民一般に行き渡っている訳ではありません。さらに文科省は税金から大学等の教育機関へお金をくばる役所であって,その哲学とか考え方を詳しく議論するのはむずかしいと思います。

一方,創薬は莫大なお金と想像力,知恵,学問力を必要とするのですが,文科省とは関係が薄く,薬の許認可権を有する厚労省と深い関係にあります。

また,世界的にみて真の大型新薬を開発できる国は米,英,独,仏,スイス,日本の6ヵ国しかなく地球上では特殊は部落を形成しているのが現実です。この点については,前回のブログ 【 創薬 日本の現状と将来 Ⅰ ー VI 】 に詳しく書きましたので,読み返して下さい。


薬は生活と生命にとり重要な役割を果たしていますから,政府の規制が強大であっても表立っては,各国政府に向かって苦情を言い難い状況にあります。創薬研究は初期の発想,研究は自由であるはずのものですが,臨床研究の段階から,政府の規制でがんじがらめとなっているのです。

さらに初期のテーマ設定の時に,会社の場合,人類,患者の幸福も考えるが将来の売上高が大きいものを選ぶよう誘導する資本主義的原理も働きやすいのです。勿論,困っている難病患者用の薬の開発も遂行されてはいるのですが,患者数の少ない領域での新薬開発は困難とはいわないまでも,難事業で,行政からの強力な経済面でのサポートが必要です。

悪い表現を使えば「創薬は政府の規制の中で踊っている囚人的ピエロ」ともいえるのです。

数年以前より私は政府による大学教授への或る競争的研究資金支給プロジェクトの審査アドバイザーを務めてきました。時代の流れで創薬に関する研究も増加傾向にありますので,或る期間のみに限定されるとはいえ,大変な仕事量です。すなわち,支給に関する透明性維持に行政も深く配慮していると推察されます。

それ故,私は先程でてきた「今や日本の科学は金もうけに堕した」という表現には与したくありません。勿論この表現の使用者は大げさに強調姿勢を示したにすぎないでしょうが,元来,科学は神聖なものであり,その精神は不変です。少し以前の STAP 細胞事件のようなものもあるのですが,長期の視点でみれば,科学は文化の生みの親なのではないでしょうか。


荒田

私は,2010年,「日本の科学行政を問う 官僚と総合科学技術会議」(薬事日報社)を出版しました。充分時間をかけて取材をしましたので,時間がかかりましたが,良いものが出来たと,自分では考えています。残念ながら,売れた形跡はなく,多くの人の目には留まっていないようです。

この項の平岡博士のコメントを読み,私は大変な共感を覚えました。創薬する側の平岡博士のご意見は,基礎科学を進めてきた私の意見と表と裏の関係にあり,両者をあわせて読めば,この項を書いた目的は極めてよく達成されていると考えます。

お忙しいところ,このブログのために時間を割いていただき,誠に有難うございました。




未完

# by yojiarata | 2016-12-08 22:34 | Trackback | Comments(0)

迫りくる宵闇 一国の総理大臣の持つべき資質



ご隠居さん 何だかお怒りのようですね。

いつものことだけどね。

それで,今回の問題は,何?

「北方領土の返還問題」と「 TPP 」だね。

耳を澄まして(!),よく読んでみて下さい。情けなくて,悲しくて,涙も出ませんよ。



新聞記事からの引用がほとんどだけど,私のコメントは,頭に 印を付けであるよ。



北方領土の返還問題



北方領土返還運動のリーダー
小泉敏夫さん死去

朝日新聞夕刊11月25日社会面14面


北方領土の元島民らでつくる「千島歯舞諸島居住者連盟」(札幌市)の前理事長小泉敏夫(こいずみ・としお)さんが24日午後11時16分,札幌市内の病院で亡くなった。93歳だった。

北方領土の色丹島生まれ。1992年に同連盟の理事長に就任し,昨年5月まで23年間務めた。北方領土返還運動の先頭に立って尽力してきた。理事長退任にあたって「領土問題の早期解決を訴えてきたが,解決の糸口すら見えず、無念の思いは隠せません。今後は一会員として返還の日まで頑張っていきたい」などと語っていた。


北方領土プーチン氏慎重
「まず共同経済活動」


12月の訪日に一気に突破口を開きたいと考えていた日本側は,慎重な説明や対応が目立ち始めた。


アルゼンチンで記者会見する安倍晋三首相=21日

首相は「たった1回の首脳会談で解決するような簡単な問題ではない」と語り,今後は粘り強く交渉していく姿勢を強調した。


国後・択捉にミサイル配備
ロシア,拠点化推進か


ショルグ国防相が今年3月に「年内に実現」と表明。ロシアは米国との対立を背景に,クリル諸島(千島列島と北方領土のロシア側の呼称)をアジア太平洋方面の国境防衛の前線と位置づけて,基地建設や兵器配備を進める。


 雲行きが怪しくなってきたね。もっとも,ロシアにその気がないことは,最初から分かっていたことだけどね。

 3年前に書いたブログ 「惨敗 日本・ロシア首脳会談を読んで下さい。



TPP



TPP発効不可能に
トランプ氏「就任日に離脱」


トランプ次期大統領は,21日,来年1月20日の就任日に環太平洋経済連携協定(TPP) からの離脱を通告すると明言した。TPP の発効には米国の批准が不可欠で,現行のTPP は発効が不可能となる。TPP を成長戦略の柱としてきた安倍政権は根本的な戦略の見直しを迫られそうだ。

TPP を成長戦略の柱とし,日米主導で中国への牽制を狙う安倍晋三首相は17日に直接,トランプ氏と会談して TPP への理解を求めたとみられる。さらに,訪問先のブエノスアイレスでの記者会見でも「米国抜きでは意味がない」と訴えた。しかし,その直後に離脱を表明されてしまった。


打ち砕かれた TPP

APEC「保護主義に対抗」・・・
トランプ氏「米国第一」

安倍首相「信頼できる指導者」・・・
日本の成長戦略に打撃

安倍晋三首相にとっても,初会談で「信頼できる指導者」とまで持ち上げたトランプ氏に冷や水を浴びせられた形だ。


 いつも,総理大臣が胸を張って言っていることと,あまりに違うじゃないの。世界で最初の首脳会談なんて騒いでいたけど,本当は,何を話したんだろうね。見当は付くけど。

 このブログで,何度となく一国の指導者たるものに資質について書いてきたけど,改めて情けないね。

例えば,今年の4月3日に執筆した次の2編の記事 忘却とは忘れ去ることなり 60年安保 から 安保法施行まで  巻の1,巻の2を読んでみて下さい。






未完

# by yojiarata | 2016-11-26 00:27 | Trackback | Comments(0)

トランプ候補 の 必殺の 一言



ご隠居さん 何をぶつぶつ独り言を言っているの。

トランプ候補が何故勝ったのか,私の考えを呟いていたんだ。

専門家でも何でもないご隠居さんの考えというのは何なの?「下手の考え休むに似たり」とも言うよ。

トランプ候補は,ことあるごとにこう言っていたのに,君は気が付いたかい。


  We will make America great again!!


彼氏の演台には,

  Make America Great Again

と書かれていたよ。



政治,経済,外交,・・・ などに全く無知な私に言わせれば,これは,必殺剣ですよ。

同じく,政治,経済,外交,・・・ などに全く関心のない普通のアメリカ国民にとっては,これは訴える力が,絶大です。

アメリカは,常に,世界のナンバーワンだと信じているからね。ナンバーワンに些か陰りが見えているときに聞くこの言葉は,深く訴えるものがあるはずだよ。




おわり

# by yojiarata | 2016-11-10 00:00 | Trackback | Comments(0)

たそがれ迫る 永田町  安倍政権の現在と今後




ここ一,二週間の間に,安倍政権とその周辺で,恐ろしくも重要な出来事が,次々に起きているよ。

余りに重要ですから,どうしてもここに書いておかねばなりません。


このブログに,様々な角度から,安倍政権とアメリカなど有志連合との関係について書いてきたよ。遡って目を通して下さい。ここでは,


永井荷風の著作がもとになっている



たそがれ迫る 庭の隅




たそがれ迫る 庭の隅 巻の2




たそがれ迫る 庭の隅 巻の3



をまず読んでほしいと思います。



***



南スーダンに派兵している自衛隊は,どうなるんでしょうね。

アメリカ主導の過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦に,ノコノコ付いていってどうしようというんでしょうね。

なお,外国のメディアは,ISIS (アイシス)とよんでいます。Islamic State of Iraq and Syria”(イラクとシリアのイスラム国)





それでは,最近の新聞から引用するよ。

 10月25日(金) 朝刊 1面
駆けつけ警護訓練を公開
公開といっても,武器を使わない訓練だけで,手の内は見せてないよ。狡猾極まるね。


 10月28日(金) 朝刊 1面
「習近平氏は党の核心」
権力を習近平殿に集中しようというんだね。なにしろ,13億の国民をかかえているんだから,大変ですよ。そのほとんどが農民だし。将来,どうなるんでしょうね,この国は。


自民党総裁の任期が伸びるそうだよ。事実上,無限に。
いつまでも,国を支配し,首相として君臨したいようだね。

こうゆうのを,独裁政権というのでは,ないですか。

だけど,この御仁,実態は操り人形ではないんだろうか。閣議のテレビを見ると,一番後に席につき,周りを見回して,大きな顔をしているけど。こういうのに限って,得てして,裸の王様だったりするんだ。実際には,周りに,悪い奴が大勢いて,王様を操り人形にしているんじゃないの。


 10月28日(金) 夕刊 1面

核兵器禁止条約
国連委決議
日本は反対

核兵器を法的に禁止する「核兵器禁止条約」について来年から交渉を始めるとの決議を,123ヵ国の賛成多数で採択した。・・・・・
米国の「核の傘」の下にある日本など38ヵ国が反対。

これには,世界中の心ある人がたまげたようだね。


唯一の戦争被爆国の日本が反対に回ったんだよ!!


岸田文雄外相は閣議後の記者会見で「決議は具体的,実践的な措置を積み重ね,核兵器のない世界を目指すという我が国の基本的立場に合致しない」と理由を述べたそうだけど,念仏みたいなこの言葉を,怒りと共に聞いた人は,私を含めて少なくないよ。

政治家なんて,いい加減なものだね。


 10月29日 (土) 朝刊 1面,13面,14面,38面
「38面」 = 被爆者憤り

「米に追随」被爆者怒り
国連委決議 日本反対 被団協が抗議文
「日本政府は核廃絶の国際世論の先頭に立つべき立場にありながら,まるで米国を代弁しているようにしかみえない。米国でなく被爆者の側にたって主張をしてほしい」

川崎哲(あきら)  「被爆国としての役割を放棄し,米国の同盟国としての立場だけを鮮明にした。とても残念で憤りを感じる」




未完

# by yojiarata | 2016-11-03 00:07 | Trackback | Comments(0)

横浜ベイスターズ  夢と 希望と 「応援・副団長」




ご隠居さん 今日はなんだかご機嫌のようですね。

プロ野球セントラル・リーグ3位の横浜 DeNA ベイスターズが,2位のジャイアンツを撃破して,クライマックス・シリーズの決定戦に進出したね。

あれも買って,これも買ってと ”オネダリ” して,戦力の補強をしてきたジャイアンツと,”コツコツ” (お金も十分でないせいもあって)若手を育ててきた DeNA の差がここで出たね。

つなぎの投手が全く不十分なジャイアンツに比べて,DeNA は,若手が1,2インニングで,実によい仕事をして,金持ち球団を完璧に抑え込んだよ。


***



私がまだ現役で,研究をしていた頃,(30年近くも前のことになるけど),横浜で開かれた学会に4日間,出席した時のことです。この会には,外国からの出席者も少なくなかったよ。学会が終わった後,いつものことだけど,”日本独自のものとはどうゆうものか” と考えるんだ。


帰りの道すがら,何の脈絡もなく,ある女性歌手の名前が頭を掠めたよ。

嘗て横浜ベイスターズとよばれていた DeNA は来る日も来る日も負け続けていたんだけど,彼女が横浜ベイスターズの私設応援団「横浜ベイスターズを優勝させる会」の応援・副団長を務めていたことを知る人は多くないと思うよ。


***



その人の名は日吉ミミ。


彼女の歌声は一度聴いたら忘れられないよ。

日吉ミミの存在を知ったあと,すぐに入手可能な2枚のLPレコードを購入しました。

1970年の録音とあるから,彼女が23歳の時のものです。それまでの何年か大変な苦労を積み重ねたという。聞けば聞くほど,こんな凄い歌い手がいたのかと驚いたよ。そこには,誰にも真似のできない,純正・日本の歌手 がいたんだ。


地面から湧き出してくるようなダイナミックなパワーのある不思議な声,それは低音から高音にわたる伸びやかな声の抜群の歌唱力,そして時として入るユーモア。

 ベッドで泣いていると,涙が耳に入るよ ・・・  


これだけの要素を兼ね備えている歌い手を私は他に知りませんね。


2010年,NHKの番組に出演した彼女は,声のことを聞かれ,私は普通の声だと思っているとニコニコ 笑っていたよ。63歳の可愛いおば様という感じだったよ。彼女の歌声は,40年前と変わらず,張りがありました。

彼女は,2008年に膵臓がんが見付かり,2009年に大きな手術のあと,それを乗り越えて,新しい企画に,夫君と共に取り組んでいたようだけど,残念なことに,NHK 出演から1年後,若くして他界しました。享年64。



2011年12月に書いたブログの記事をお読みください。

惜別 日吉ミミ





おしまい

# by yojiarata | 2016-10-13 17:42 | Trackback | Comments(0)

戦争と平和




ご隠居さん 戦争の話が始まるのですか。


そうです。戦争を抜きにしては,今の時代を考えられないからね。


ブログを書き始めて6年近くになりますが,ここでは,過去1年くらいにわたって掲載した記事を整理しておきたいと思います。


それで,今回は,何が話題になるのでしょうか。


終戦直前,ロシア(旧ソ連軍)が国境を超えて乱入した事件(第1部),それと中東で起きている戦争(第2部)の2つです。


追記(2016年10月8日)

朝日新聞夕刊の総合2面の左隅に興味のある連載記事が 月―金 の5回づつ,掲載されています。今週は,「未確認生物をたどって Ⅱ」でした。来週10日からは,「対戦末期に始まった日ソの戦争をたどります」と予告されています。どんな記事になるのか,待っています。





まず,第1部戦争と平和


昭和20年(1945年),ソ連は日ソ中立条約を無視して,日本に宣戦を布告,8月9日午前零時,満州に攻め込み,暴虐の限りを尽くしたんだ。まるで,やくざの殴り込みですよ。


奥底の悲しみ 戦後50年
引揚者の記憶
(NHK 山口放送)
2016年9月20日



この番組は,綿密な取材に基づいた力作です。テレビの画面からは,犠牲になった多数の日本人女性の慟哭と恨みが迫ってくるよ。

読者に是非とも観てほしいよ。再放送を待つか,NHKオンデマンド(のライセンスを登録している場合)で観ることができるよ。


私は,この事件以来,あの国を信用しないことにしているんだ。安倍総理大臣は,北方領土について,今後,粘り強く話し合いを続けていくなんて,呑気なことを言っているけど,あの国相手では駄目ですよ。日本も,外交力ゼロという感じだね。情けないね!


なお,事件の詳細な経緯については,続いて引用する角田房子さんの著作を精読して下さい。


***



満州については,このブログに何度も書いたけど, 東条英機,岸信介 が共謀して,関東軍を牛耳り,結局,太平洋戦争の震源地となったんだ。



*




満州建国 と 満蒙開拓団に悲劇



満州事変の翌年,昭和7年に建国された 満州国 は建国のスローガンとして現地の人たちと共に,五族協和 と 王道楽土 を目指すことが 謳はれたけれど,実際は日本人が優位に立つ,いわば日本の傀儡国家だったんだ。

最も多い時で,日本人は軍人・軍属を含めるとおよそ205万人。そのうち満州北部の広い地域に入植した 満蒙開拓団 の数はおよそ27万人に上ったといわれているよ。

1931年に日本は満洲事変を契機に満洲全域を占領して,翌1932年に満洲国を建国。満洲国は清朝最後の皇帝であった愛新覚羅溥儀を元首(執政,のち皇帝)と勝手に定めました。日本の傀儡政権だった満洲国は,この時期,事実上日本の支配下とあったんだ。


日本は南満洲鉄道や満洲重工業開発を通じて多額の産業投資を行い,農地や荒野に工場を建設した結果,この時期に満洲の近代化が急速に進んだよ。一方では満蒙開拓移民が入植する農地を確保するため,既存の農地から地元農民を移住させる等,元々住んでいた住民の反日感情を煽るような政策も実施したといわれているんだ。


以上の記述は,NHK解説委員室・解説アーカイブス 時論公論 「“満蒙開拓団”の史実に学ぶ」 (2013年8月17日)による。


***



五族協和を理想として教えられ,国のためと信じて大陸に障害を捧げる決心で故郷の地を離れた満蒙開拓団 ― しかしその最期は余りにも悲惨であった。

満蒙開拓団の人々は ” 国策 ” と呼ばれた至上命令を信じて満州に渡った。・・・・・ ソ連参戦と同時に彼らは日本軍に放棄され,一切の保護を失って,血と泥と雨の中の逃避行を続け,虐殺,暴行の地獄を彷徨し,収容所では飢餓と寒気と悪疫にさいなまれた。  ・・・・・   こうして多くの開拓民―日本人の大集団が非業の死を遂げ,全員が財産を失った。

角田房子 『墓標なき八万の死者 満蒙開拓団の壊滅』 の「あとがき」 より。

角田さんのこの本は,最初から,じっくり読んでほしいね。悲しく,辛い話だけど。旧ソ連 (現ロシア) の過去,現在,未来を知るためにも。

a0181566_1451379.jpg

1991年 11版



***



ソ連軍の満州侵攻を身をもって体験した T さん(戦争中は関東軍の一員,現在96歳)の話は生々しいよ。

日本の関東軍の運命は3つに分かれたんだ。理屈も何もない。ソ連が勝手に決めたんだ。ひとつは,「南方」に送られた組,多くの戦死者が出たと聞いています。第二は,「シベリア」に送られ最も悲惨な運命にさらされた組,第三は,朝鮮から日本に送り返された組。 T さん は,幸運にも,日本に送り返されたんだ。







つづく

# by yojiarata | 2016-10-03 00:22 | Trackback | Comments(0)